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セミ鯨の抱える問題 今日はスコットは用事があるので、エイミーがキャプテンだ。 エイミーに私か旦那のどちらかにビデオを撮るように言われて、あまり船酔いしない旦那が引き受けた(引き受けさせたと言った方がいいかも)。 船の上でビデオを撮るのは昨日の状況からして私には無理そうだった。 |
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今日も、外洋に出るとすぐに、セミ鯨に遭遇した。 セミ鯨の頭。カロシティの模様は個体によって異なる。 セミ鯨は捕鯨の始まった初期からその対象になってきた。 まるまると太った体に付いた大量の脂肪が、人間に生活油を提供し、プラスチックのない時代に、長いヒゲはコルセットや傘の骨、時計のゼンマイなどに重宝された。 その上、沿岸性で死ぬと浮くので、近代のスリップウェーや捕鯨砲の装備された船が考案される以前から、捕獲が可能な「Right Whale to hunt=捕るべき鯨」と呼ばれていた。 頭のてっぺんには2つの鼻の穴が見える 北大西洋セミ鯨は、生息数350頭。 これは、回復の遅いセミ鯨にとって決して多い数ではない。 例えば、同じく1930年代から保護されている西海岸のコク鯨は、奇跡的な回復を見せ、絶滅の危険度を示すレッドデータにおける地位も上がっている。 それに対しセミ鯨は、未だ生息数が回復しているのかどうかさえも分かっていない。 しかも、DNA検査の結果、現在の北大西洋セミ鯨が2頭の母鯨の共通の子孫であることが分かっている。 これは、セミ鯨にとってあまりいい発見ではない。 たとえ繁殖したとしても、近親による繁殖のために不妊や死産が起こりやすいことを示している。 実際に、それが原因かははっきりしないが、セミ鯨の子どもの原因不明の突然死も報告されている。 もう一つ、セミ鯨の生息数回復にとって障害になっているのが、人間の海上活動だ。 セミ鯨は泳ぎが遅いので、船が鯨の存在に気づかないまま衝突し大怪我したり死亡したりする。 漁網に引っかかることもある。 年間死亡数の約50%が人間の海上活動との接触によるものだ。 セミ鯨ウォッチング 2日目 セミ鯨には暗いニュースがいつもついて回るが、ここでは見える鯨がすべてセミ鯨で、セミ鯨の直面する危機がウソのように思える。 ザトウ鯨にも似た、メスのもの悲しい鳴き声に引き寄せられ、オス鯨はどこからともなく次々と姿を現し、メスを自分のものにしようと盛んに押し合いへし合いしている。 興奮した鯨の鼻息はV字型に荒く噴出し、尻尾や胸びれで海面を叩き、頭を突き出したり生殖器を出したりして、力強い生命を感じる。 呼吸も荒い これだけの鯨がいるのかと思うほどの鯨に会う。 まるでメーン湾のセミ鯨すべてがここに来ているようだ。 |
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セミ鯨のオスたちは、メスを求めて競争しあう |
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傾いた体の口の先に眼が見える。 |
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お腹を見せるメス。赤いのは糞 |
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テールブリーチも盛ん |
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今日はハイドロフォン(水中マイク)を水中におろしたので、メスの声が実況中継で聞こえた。 ハイドロフォンの上げ下げくらいはできそうなので、私が担当した。 メスの声はセミ鯨の繁殖活動中、ずっと聞こえていた。 ザトウ鯨(オス)の歌も長調というより短調系だが、セミ鯨(メス)の歌も短調で、性別の違いこそ荒れ、歌そのものはそんなに変わらなく聞こえた。 ザトウ鯨では、高い歌声の間に低いメロディーがあるが、セミ鯨の歌にはないくらいだろうか。 他のヒゲクジラの鳴き声はきいたことがないが、皆、短調系なのだろうか。 イルカの楽しげな鳴き声より日本的な感じがする。 |
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頭部は、長いヒゲを持つため、口の形が大きく曲線を描く。 |
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途中、先日お世話になったブッチのホエールウォッチング船と出会い、少し離れたところでザトウ鯨がフィーディング中と教えてもらった。 エイミーも、繁殖行動中のセミ鯨がどの辺で見えたか、ブッチに教えた。 営利目的のホエールウォッチング運行者と水族館の研究者は、時々情報交換しているようだった。 レニーが、「ザトウ鯨見て帰ろうよ」とエイミーに何度も頼んだ。 私も口には出さなかったけど、見に行けたらいいなと思っていたが、ついにエイミーは、「調査とお楽しみは別」ということで、OKを出さなかった。 今日は休憩の後、夕方まで、セミ鯨の調査を続け、私も旦那もセミ鯨を堪能した。 |
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カナダと合衆国の間に架かる橋 この橋が見えると、もうすぐ港だ。 |
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ボストンに戻って 1週間のリュベックの休暇からもどって、いつもの写真屋さんにフィルムを出した。 この1週間撮り続けた写真は、36枚撮りで10本にも上った。 そのうちの殆どは鯨を見に出かけた3日間のものだ。 鯨から距離が近く、船が小さくて海面と同じ位置に立っていたので、できあがった写真には鯨がフレーム一杯に、鯨と同じ目線で写っていた。 メスを巡ってオス同士が興奮しているさまや、お腹を上に向けて後部を拒否しているメスがよく写っていた。 ナーリッド号に乗った1日目に1度だけ、セミ鯨のブリーチングが見えたことがあった。 私たちが繁殖活動中の鯨から少し離れて休憩している最中で、皆、フィルムの交換や記録の整理をしていて鯨の方にあまり注意を向けていなかった。 私はフィルムの交換の必要がなかったので鯨を見ていた。 突然、30mほど先で1頭のセミ鯨がブリーチングした。 あわててカメラを構えてシャッターを押した。 スコットが「あれ、今の何?誰か写真撮った?」と訊いたので、「はーい!」と元気に手を挙げたのに、プリントされてきた実際の写真は、ブリーチングらしき鯨の一部が見え隠れする水しぶきだった。 写真ができたらスコットに見せることになっていたのに・・・。 ボイヤジャーの皆にも出来た写真をもっていった。 ステルワーゲン堆のように見渡す限り海ではなく、ブッチの船から撮った、赤と白のかわいらしい灯台や深い緑の森を背景に泳ぐナガス鯨の写真や、ボイヤジャーでは滅多に見られないセミ鯨の写真を喜んで見てくれた。 このとき、写真代にだいぶ使ってしまったので、経費節減のため、以降のホエールウォッチングで撮った写真は白黒にして、旦那の仕事場にある暗室を貸してもらって、自分で現像することにした。 現像のプロセスも、慣れると自分の気に入った部分だけ現像したり、拡大したり出来て、毎週末のように暗室に閉じこもって結構面白かった。 シーズンが終わってスコットたちがボストンに戻ってくると、3人の、またもとの、電話で始まる生活が始まった。 これが次のフロリダの冬季シーズンまで続く。 フロリダでは船だけでなく、航空機による空からの調査も行われている。 そこで会うのは、メーン州で出会った鯨の一部に過ぎない。 他のセミ鯨たちが冬をどこで過ごすのかは、まだ解明されていない。 そこでも、メーンの生活のようにハードな、でも生き生きとした調査の毎日が続くのだろう。 今は皆、陸に上がった”鯨”なのだと思った。 鯨の研究者って、みんなそんななのかも知れない。 ボストンの研究室には、リュベックで会ったフィルが加わったが、陸に上がった鯨たちの生活にかわりはなかった。 いつも黙って見守ってくれるフィルは、一緒にいて楽しかった。 いままでスライドを見るための照明板をおいてあった机が彼の机になった。 彼にセミ鯨のスライドで個体識別の仕方を教わったことがある。 それまで、個体識別は、写真や情報さえあればそんなに難しくないのだろうと思っていた。 「このスライドはどのセミ鯨のものか分かる?」と言うフィルの出した課題に取り組んだ。 が、フィルが、「一番識別が簡単な鯨だから」と言っていたにもかかわらず、私には、そのスライドに写った鯨がどの鯨なのか分からなかった。 スライドに写った鯨のカロシティーの模様をもとに、セミ鯨のファイルを見ていくのだが、本当のカロシティーの他に影もある、一時的なものも写っている、新たに加わった色もある。写真に写った角度も違う。 どれが見るべき模様で、どれが見過ごしていいものか、判断が付きにくい。 見れば見るほど、皆同じに見えるし、違うようにも見えた。 慣れれば簡単なのかなあ?この調子だと私にはとても、調査なんか出来たモンじゃないと思った。 |
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(準備中) | |
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