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セミクジラ研究室
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1992年4月16日  10℃ 曇り時々晴れ間、のち雨


「ごめんなさい!マイク。今、ボイヤジャーに乗ってます」(私はどうしようもない不治の鯨中毒のボランティアです)
まだウォッチングの始まっていない今日は、本当は、コールドマリンで、マイクと働く日だ。(現に30分前まで、コールドマリンの動物たちにエサをやっていた。)

ボイヤジャーは冬の間、キャプテンのケニーやリサ、スティービーを乗せてフロリダに出稼ぎに行っていた。私はその間、陸に上がった船乗りのように、早くまたホエールウォッチングのシーズンがこないかと、またボイヤジャーで海に出る日を待ちこがれていた。

春になると、今日か今日かと、毎日のようにボイヤジャーの停泊するはずの港をチェックしてから水族館に入るのが日課になった。
ついに昨日、主が不在だった停泊位置に、ボイヤジャーの姿を見つけたときは、「やった」と叫びたくなった。
なつかしい姿に嬉しくなって、誰かクルーはいないかなと、のぞきに行くと、スコットがいた。

彼と会うのも久しぶりだ。(彼を含むほとんどのクルーは、常勤の職員ではなくアルバイトなので、ホエールウォッチングの季節以外は水族館にいない。)スコットは、今年から運行される”ドック・エドジャートン”号の準備をしていて、明日(つまり今日)、コールドマリンの昼休みにドック・エドジャートンのクルーズに私を招待してくれた。

ドック・エドジャートン(ドックはドクターの愛称)の名前は、私がロブスターの世話をしていたエドジャートン研究室同様、同名の科学者に由来する。エドジャートン研究室で、パットやボランティアの学生が行っていたボストン湾の水質検査が、奨学金が取れなくて中止になり、その代わりに今年、このドックエドジャートン号ができた。

ドック・エドジャートン号の任務は、簡単に言えば、お客さん(主に学生)に研究室でやっていた調査の肩代わりをやってもらうことだ。
ボストン湾内を運行し、いくつかの停止地点で、透明度板をおろして透明度をはかって水質検査したり、あらかじめ仕掛けて置いたロブスター用の罠を引き上げてボストンに棲む動物を観察したり、採集した水を顕微鏡で見てプランクトンを調べたりする、いわば一般参加のボストン湾調査だ。30〜40人乗りの、ボイヤジャーよりも随分小さな2階建ての船で、船室内の机には顕微鏡が固定されており、調査のための道具も整備してある。もちろん、ただクルーズを楽しみたい人は、何も参加する必要はない。

以前、ボイヤジャーのキャプテンのケニーやブライアンに、「ドック・エドジャートンでアルバイトしない?」と言う誘いを親切にもいただいたことがある。「内海なら船酔いもあまりないよ」といわれたが、あまり気乗りしなかった。

ボストン湾内では滅多に鯨は見えない。ローガン空港の辺りに、ネズミイルカがいるが、まだ、みたことはない。
私が船酔いも顧みず海に出る目的はただ一つ、鯨が見えるからで、「鯨が出るまでは」と自分に言い聞かせることができる。(それでも時々酔う。)
船酔いを、鯨もいないところでコントロールできるとは思えない。私にはこの仕事は無理だ。(リサから聞いたドミニカ共和国の話と違って、鯨が関わらないと、随分理性的に物事を判断するものだ。)

スコットから招待を受けて、今朝マイクに、「ドック・エドジャートンに乗るから、昼休みを少し長くしていい?」と頼んだ。
もちろん、口は悪いが根は優しいマイクは、「いいよ」といってくれた。

だからはじめは、ドック・エドジャートンに乗る予定だったのだ。
ボストン湾を出て、ドック・エドジャートンでお弁当を食べて、ボストン湾内で水質検査などを見学して、いつもよりちょっと遅れてコールドマリンに戻り、仕事の続きをするつもりだった。

出港直前、ブライアンと彼の秘書のキャロルが、ドック・エドジャートンに乗ってきた。
ブライアンは、船内の椅子に座っている私を見つけて、「今日は、ドック・エドジャートンの様子とボイヤジャーの様子を旅行会社の人たちが宣伝用ビデオに撮影しに来てるんだ。だから、ドック・エドジャートンはこれから、ボイヤジャーと海の上でランデブーして、僕らは、ボイヤジャーでステルワーゲン堆へホエールウォッチングに行くんだ」といった。

そして、「人数は多い方がいいから、一緒にボイヤジャーに来ない?」と誘ってくれた。
ブライアンの言葉は夢のように響いた。

ブライアンは、館長のプレスコット氏の隣にオフィスを構えているくらいのえらい人なのだが、いつも一介のボランティアの私に気を遣ってれくれる。(そうそう、プレスコット館長も気さくだ。)日本人用のホエールウォッチングガイドとかいろいろ仕事を持ってきてくれる。

もちろん、いくら夢のような本当の話でも、鯨好きの私でも、今日の話ははじめは断った。
「今日はコールドマリンのボランティアの日で、昼休みを利用して来ただけです」
ブライアンは、「大丈夫、ボイヤジャーから無線でマイクに連絡すればいいから」といってくれるが、
「いやいや、そうはいきません」とことわり続けた。

しかし、心中は嵐の船より大きく揺れていた。
よく笑い話に登場してくる、いい私と悪い私が激戦の真っ只中だった。義理と人情の板挟みだった。
「待ちに待ったホエールウォッチングじゃないか、さあ行け!」「ダメダメ、マイクが優しいと思ってボランティアだって責任があるんだから」

そしてたいていはそうなるように、いよいよボイヤジャーがやってきてドックエドジャートンに横付けされ、ブライアンたちが乗り込もうとしたとき、悪い私が、「私も行く」といってしまい、次の瞬間、クルーに手を引いてもらってひょいとボイヤジャーに乗り込んだ。

「・・・というわけで。ごめんねマイク」
キャプテンのケニーに無線を借りて、マイクに事情を話した。マイクが冗談ででも一言悪態を吐いてくれればまだ気持ちも楽なのだけど、彼は、ただ「いいよ。あとはやっとくから」と、私が午前中に終わらなかったエサやりを快く引き受けてくれた。
良心がぎゅーっと痛んだ。

マイクに無線で連絡を入れ、良心の呵責をひしひしと感じながら下の階に行くと、ボイヤジャーには、キャプテン代理のスティービー、ナチュラリストのリサ、スコット、クルーの懐かしい面々がそろい、「ハーイ!」と迎えてくれた。
いつもは交代制で働いているので、こんなにみんな揃うことは珍しい。
私にとってはオールスターだ。
なんて、さい先のいいウォッチングのスタートだろう。
もうボストンに戻るまでは、性根を据えてホエールウォッチングを楽しむことにしよう・・・。

ステルワーゲン堆までは、取材の人たちを含めみんなで、スコットやブライアンを取り囲み座って、ステルワーゲン堆や鯨の話を聞いて過ごした。

やがて、船のエンジンが急に止まると、懐かしいステルワーゲン堆の、カマイルカ群れの真ん中に到着した。
海は少し荒れている。

まだ4月の半ばは寒く、吐く息は白いが、イルカは、ボイヤジャーを追いかけたり船の陰に隠れたり先導したりし、時々ジャンプし楽しそうだ。
ボイヤジャーの他には、漁船もウォッチング船も1隻もなく静かだ。スコットに言われて耳を澄ますと、口笛の音のようなイルカのホイッスリング音やカチッと言うクリック音も聞こえる。このカマイルカの群れは、ボストンへ帰るときまで耐えることがなく辺りにいた。

ザトウクジラも停止したボイヤジャーから10頭ほど見える。
10mほど先には、ナガスクジラが見えた。

ボストンはまだ寒く、私の気分はなかなか冬から抜けきらなかったが、季節は移り、ステルワーゲン堆にはもう、南から鯨たちが戻っていた。彼らはもう、すっかり春の準備ができて、活動的になっている。去年もそうだったが、やはり春先は、鯨の種類も数も多いし活動的だ。

ザトウクジラがフリッパースラッピングを見せる。南で生まれ、この海域に生まれて初めて来た子供のザトウクジラの尾も見える。「パオーッ」と言うトランペッティングが聞こえる。

鯨やイルカの上空には、多数の海鳥が飛んでいたので、おそらく、フィーディングしたいたのだろう。残念ながら、海下でエサをとっているのか、ザトウクジラの大口を開けた姿は見られなかった。

1頭のザトウクジラが船に近づいた。
背中に、大きな、カッターで切ったような何本もの平行した傷がある。
できて間もないらしく、傷口が赤くて痛々しい。傷の付き方からすると、船のプロペラと接触したのかもしれない。
まだステルワーゲン堆に着いて間もないというのに。
片方の尻尾のシルバーのように、人間なら手術なしではとうてい助からないような重傷でも、自然の治癒力で生き延びていく場合もある。
この鯨も、うまくエサをとって体力をつけて回復するといいが。

ボストンに戻ったときは、もう5時過ぎていた。急に重たくなった気持ちを抱えて、すぐにコールドマリンに行ってマイクに謝った。
怒ってくれればいいのに、マイクはにこやかだった。
当然、もう今日の仕事は終わっていた。
あ〜あ、ごめんねマイク!私は悪いボランティアです。(自己嫌悪)


4月16日  10度 曇り。風10〜15MPHだが、沖合は波が高い。

お客さん120名。今日はボランティアトレーニングの日で、ボランティア全員が乗船。
ザトウクジラ10頭とナガスクジラ?(ひどい船酔いで、よく分からない)頭。
春の海は荒れやすい。

真冬のジャンパーを着ていても寒い。
今までの経験から寒さも船酔いに拍車をかけるようだ。
通常は、外気をすって水平線を眺めるのが、船酔い克服の常套手段だが、今日は、寒さに耐えられず船室内に入る。
でも、暖かい船室内のコーヒーやホットドッグのむっとした臭いで気分が悪くなり、また外へ出る。寒さでがちがち震えて、船室に戻る。そうするとまた気分が悪くなる・・この悪循環を繰り返した。
ボランティア仲間でも酔っている人がいるようで、変ないい方だが心強かった。

船酔いは気分的なもの、と冷たくあしらう人もいるが、その気分をどう持っていけばいいのか、教えて欲しい。
私は鯨が見たい。船酔いしない人間(というものは実際にはいないらしいが)になれるのなら、どんなことだってする。
毎日船に乗ったっていい。

なんとか、気持ちを奮いたたせて、時々鯨を見たが、写真の出来はたぶんあまり良くないだろう。

ザトウクジラはフリッパースラッピング、ブリーチング、大口でパクリと魚を飲み込むフィーディング(Gulp feedingという)やフリックフィーディング(尻尾で海面をたたいて魚を脅して集め、食べる)、バブルネットフィーディングをした。
バブルネットフィーディングはかなり頻繁だったらしい。

ボランティアも乗客は皆、鯨を見にデッキに出払った空っぽの船室に取り残され、船酔いで苦しみながらナチュラリストの興奮した説明をラジオのように聞いていた。
これほど空しいことはない。


4月30日  13度 風10MPHだが、ボストン湾を出た頃から揺れる。

今日のボランティアは、ボランティアトレーニングのクラスで席が近かった、ジョンと2人。
ジョンは、退官した警察官で、アメリカ映画に良く出てくるポリスマンそのままだ。
背が高く、太い首とがっしりした筋肉質の体で、彼ならどんな犯人だって捕まえそうだ。
でも、恐そうなのは見かけだけで、実際は、とても穏やかに喋る。

今日は、小学生の団体があり、乗客は多かった。

ザトウクジラ7頭、ナガスクジラ1頭、カマイルカ多数。

1頭のザトウクジラは、ロブテーリングを20回ほど繰り返す。
遠くで1頭がブリーチングしていたが、ボイヤジャーが近づくと止めてしまった。
明らかに私たちが近づいて欲しくなかったようだ。

ナガスクジラは1度近くに来たらしいが、見逃した。

イルカは船の辺り一面に見える。
去年も先日もそうだったが、イルカは春先には良く大群で現れるようだ。

4月16日に見た、背中に傷のあるザトウクジラをまた見る。
快方に向かっているようでも悪化しているようでもなく、あまり変わりなさそうだ。本当に気の毒。

海が荒れたので、小学生の中にかなり酔う子が出た。
小さい子の場合、自分に何が起こっているのか分からず、ぎりぎりまでじっと我慢して、友達の前で急に吐いたりしてとまどうことが多いので、特にかわいそうだ。大人の間でも、酔う人間は気力がたりないみたいに思われて、分かってもらえないこともあるが、子供の場合、周りの子がからかったり露骨にいやがったりするので、もっと気の毒だ。

私も少し気分が悪かったが、何とか治まった。
デールから、「まだSea legsが生えてないの?」と言われた。
デールもシーズン初めの数回は酔うらしいが、そのうち慣れてくる(つまり、海の足=Sea legsが生える)そうだ。
私にもそう言う日が来るだろうか、とちょっと悲観的になる。


5月2日 18度 風10MPHだが、海上荒れる

乗客数多い。去年一緒だったジャッキーと2人、再会を喜ぶ。

ザトウクジラ5頭、ナガスクジラ1頭、ミンククジラ1頭(遠くで)、ネズミイルカ数頭、カマイルカ数頭。

水族館を出て数分のところにあるローガン空港の辺りで、前からいると聞いていたネズミイルカをはじめて見る。ネズミイルカは、体長1.5mくらいの小さな暗い色をしたイルカで、英語では、「Habour Porpoise 港のイルカ」と呼ばれている。日本語では区別のない「dolphin」と「porpoise」だが、前者が、ハンドウイルカのようにくちばしの部分が前方に突き出ているのに対し、後者は、くちばしがなくて、頭から口にかけてはなめらかな曲線を描いている。

ホエールウォッチングでは灰色の背中の部分しか見えないので、遠くからでは辺りの景色にとけ込んでしまい、わかりにくい。
ジャッキーが「ほらあそこ」と指さして教えてくれるのだが、なかなか見つけられずに、彼らが消えてしまう寸前にやっとちょっと見えた。
カメラを持って出たが、もちろん写真は撮れていない。

ステルワーゲン堆では、1頭のザトウクジラがかなり長く私たちを楽しませてくれた。
10m程先でフリッパースラッピングを繰り返し、その後、突然ブリーチングを始める。それから長い間、ボイヤジャーの左舷〜右舷でスパイホッピングしていた。

船の近くのスパイホッピングは、「ホエールウォッチング」とは逆に、鯨が私たちを見る「人間ウォッチング」といわれているが、鯨が海上に頭を覗かせるたびに、乗客からは歓喜の声が挙がる。
ザトウクジラは船に近づくことが多くいろいろな行動を見せてくれて、もともとフレンドリーな感じの鯨だが、この一連のスパイホッピングは特に、私たち人間を意識しているようで、親近感がわく。
鯨はすぐそこ、手を伸ばせば届きそうな距離にいる。それをボイヤジャーのあちこちで繰り返しては、私たちを喜ばせる。

このフレンドリーな鯨で最初のフィルムを撮り尽くし、あわてて船室内に戻り売店で新しいフィルムを買った。
外では、まだまだ鯨のスパイホッピングが続いているらしく、歓声が聞こえる。

ここからが今日の明暗の分かれ道だった。
フィルム交換は簡単な作業だが、このときは焦っていた。
1本フィルムを撮り終わったところで満足して、やめておけばよかったのだ。

1本めのフィルムを巻き戻さずにふたを開けるとどうなるか、当然、そこにはまだ巻き戻されてないフィルムがあった。
あわててふたを閉める。
数枚の写真が感光したはずだ。特に今日のスパイホッピングの分が危ない。
本当は巻き戻しボタンを押さなければ、巻き戻せないのに、船室の外の乗客の喜ぶ声でさらに焦って、理由が分からずにトラブった。

これはもう、このフィルムをあきらめてでも新しいフィルムを入れて撮影を再開しようと決心して、カメラをあけてフィルムを無理矢理取り出した!
もちろん、入っていたフィルムはすべて、この時点で感光された。

おまけに、急いで新しいフィルムを入れてデッキに戻ると、鯨はもう姿を消したあとだった。
なんと言うこと!

今日と前回、前々回の写真を感光させてパーにしてしまった!
もっと冷静になっていれば、こんなダブルミスはおかさずにすんだはずなのに。

あの背中に傷が付いた鯨の写真も、始めて撮ったスパイホッピングもなくなり、しかも今日のウォッチング自体は、one of the bestだった。こんな良いときにひどいミスをした自分に凄く腹が立つ。

ジャッキーは、「そんなこともあるよ」と慰めてくれたが、もう絶対、自分が許せない。
悔しさのためか、帰りは船酔いしてしまった。アパートに帰ってからもまだ、気持ちが悪い。


5月9日 15度。風10MPHだが、海上は少し荒れる。

この1週間はすっかり落ち込んで、自分をののしり続けた。

でも、今日は大満足。
前回を上回るone of the best !おそらくこれからもこんなのはないだろう。
ザトウクジラ14頭。ナガスクジラ2頭、ミンククジラ3頭。乗客は少な目だった。

「今日はザトウクジラのバブルネットフィーディングを見たよ!」
ジャッキーと2人でボイヤジャーに乗り込むと、午前中のボランティアだったスティーブ、コレット、バーバラが、興奮さめやらぬ感じで私たちに話してきた。

しまった、午前中に行けばよかった!と思った。

ジャッキーも私も、単個体のフィーディング、それも海上に出てきた時にはエサのほとんどは飲み込んでしまったようなフィーディングしかまだ見たことがなかった。午前中に見えたものが午後にも見えるという保証はどこにもない。
むしろ、午前中にエサをとっていたのなら、午後は休んでいるかもしれないし。

だから、私たちは、はやる気持ちを抑えることで、午前中に見たものは再現されないと言うジンクスを追い払うように、航海中ステーションにやってくるお客さんには、「今日はザトウクジラのバブルネットフィーディングが見えたらしいですよ。バブルネットフィーディングはザトウクジラ特有の魚の捕り方で・・・」と努めて冷静に話しながら、ステルワーゲン堆に着くのを待った。

ステルワーゲン堆は、霧が出て視界が悪く、20〜30m咲きのウォッチング船さえ、ぼやけて見える。
海面は嵐の前のように暗くて静かだ。

「こんな天候で大丈夫かな?」
一瞬不安がよぎったが、興奮した生き物たちがすぐに不安を吹き飛ばした。

突然、たくさんの異様に興奮した鳥の声がわき上がり、1つの方向へ移動した。
その先を追いかけると、静まりかえった海面が徐々に泡立ち、やがて、数ははっきりしないものの、多数のザトウクジラが大口を開けて現れた。
遠くではっきり分からないが、数頭やそこらではない、かなり大きな群れだ!

ザトウクジラのバブルネットフィーディング

ザトウクジラのバブルネットフィーディング

鯨たちは、その場所のフィーディングがすむと、次の場所に敏速に移動した。
こんな暗い海でも鯨にはエサの魚がどこにかたまっているのか、あらかじめ分かっているかのようだ。
5〜6頭が一団となって、荒々しく息を吐きながら同じ方向に進み、ほぼ同時に尻尾をあげて潜る。普段は単独か多くても2〜3頭で泳ぐザトウクジラだが、今日は、群れの規模が大きい上に、移動は息もぴったろで素早い。いつもの遊びっ気たっぷりのザトウクジラとは一見して全く違う。

ザトウクジラのバブルネットフィーディング

霧でよく見えないが、それもまた神秘的だ

ザトウクジラのバブルネットフィーディング

やがて鳥群は、こちらの視界ぎりぎりのところにいるウォッチング船をめがけて飛んでいき、その下の海が波立ってきた。
今度は一部始終が見えそうだ!
私たちは、息をのんだ。私はカメラを構えた。ちょっと遠いがかまうものか。こんなチャンスは滅多にない。
ジャッキーが「あとで写真ちょうだいね」といいながら、自分と場所を代わってくれた。
私たちは、ボランティアでなく、興奮した乗客になっている。


        ザトウクジラのバブルネットフィーディング

ザトウクジラのバブルネットフィーディング

1頭、2頭、3頭・・・鯨が連鎖的にスローモーションのようにゆっくりと頭を出す。
全部で10頭はいる
空に向かって大口を開けて現れると、口を閉じながら沈んでいく。

    ザトウクジラのバブルネットフィーディング

霧によって、鯨のフィーディングのエネルギーと迫力は一段とまし、神秘的だ。

鯨たちの行動は、ブリーチングやロブテーリングと違い、一見してはっきりとは分からない。
フィーディングで見えているのは、鯨の頭の部分だが、頭と分かっていても、まるでねじが外れたように上あごと下あごがガパッと大きく開くので、どこがどうなっているのか、上あごとペアーになっている下あごがどこにあるのか、たくさんの鯨が同時に口を開けるので、もう何がなんだか分からない。

お客さんに鯨の行動と今日のウォッチングがどんなにラッキーかを説明しながら、ジャッキーは「こっちに来て、もっとこっちに来て」と祈るようにつぶやいている。ボイヤジャーに乗った人間全員がそう思っていたに違いない。

ザトウクジラのバブルネットフィーディング鯨は素早く次のエサ場へと移動する

私たちの運は、尽きてはいなかった!

ひとしきり向こうで騒いだ海鳥の群が、鯨とともに、今度はボイヤジャーの方に向かってくる、私たちが襲われるのではないか思われるほどの迫力で!
私とジャッキーは興奮し抱き合い、この信じられないような幸運に、ただ小さな声で、「Oh my God!」を繰り返した。

      ザトウクジラのバブルネットフィーディング
鯨が出した泡のカーテン

ボイヤジャーの舳先からたった5mの海面に白い泡が1つ2つ3つ4つ・・・ちょうど怪獣が海から現れてくる場面のように、続けざまにボコボコボコボコッと出て、それが見る間に円状に泡立っていく。海の中では今、鯨は円を描いて泳ぎ、泡のカーテンの中でサンドランスの大群が行き場を失ってパニック状態になっているはずだ。
これから恵みが現れることを知っている鳥たちは、その上空で、うるさいほど興奮して鳴いていた。


      多数のザトウクジラのバブルネットフィーディング
次々頭を出す鯨たち

やがて、泡の中からゆっくりと、ザトウクジラが天に向かって口を開けて海上に浮上してきた。
あごが外れているのではないかと思われるほど、上あごと下あごを桁違いに開きながら、次々と出てくる。

上あごからは密集した黒い鯨ひげが見え、左右のひげの間の歯茎だけが暗い景色の中で鮮やかなピンク色に際だっている。
下あごからお腹に延びる畝が、ぱんぱんに広がり、海水と魚で膨れているのが分かる。
大きさは違うが、鳴いている蛙のお腹そっくりだ。


   ザトウクジラフィーディング
エサは口の中、海水だけを濾し出す

   ザトウクジラフィーディング
海中に沈みつつある鯨、畝が見える

精一杯の魚をすくい取ったあと、再び沈みつつある鯨の口からは、海水が多量にあふれ出す。その鯨の口の中や周囲には、大量のサンドランスらしき魚がパニック状態になってもがいている。海鳥は、鯨と鯨の間や、あるものは鯨の口の縁に停まって、忙しく鯨の宴のおこぼれをいただいている。
鯨が口を閉じるのに間に合わなかったら、ピノキオのように鯨に飲み込まれてしまう、危ない魚捕りだ。

ボイヤジャーの横でフィーディングを終えた鯨の群は、また少し離れたところに移動し、一連のフィーディング行動を繰り返した。

フィーディングの群れの中には、サルトとコルトが見えた。

もちろん、写真も撮った。
泡のところに焦点を合わせて鯨の出てくるのを待っていれば良いので、初めてのフィーディングもそんなに難しくはなかった。
ただ、突然スローを投げる投手を相手にしたみたいで、鯨の出るタイミングがよく分からなかった。
モータドライブなんて高級なものは持ってないので、とにかく許す限り、シャッターを切った。

活発なザトウクジラとは対照的に、他の鯨はいつもと変わりない。同じ鯨でもエサが違うからだろう。

ミンククジラは珍しく好奇心旺盛で、ボイヤジャーの周りを泳ぐ。
近かったので、ミンククジラの特徴である胸びれにある白いバンドも見えた。
ナガスクジラも結構近かった。

ボストンに帰る途中、1頭のザトウクジラがボイヤジャーのすぐそばを泳いでいた。

今日は、どこのウォッチング船でもバブルネットフィーディングが目玉だったらしく(ステルワーゲン堆へはボストンやボストン近郊、コッド岬からウォッチング船が運行されている)、同じ現場に常に2隻ほど船が同席していた。

今日使ったフィルムは、まだ少し残っていたが終わりにすることにした。
フィルムの交換では、先日痛い目にあったばかりだから、アパートに戻って落ち着いてから、1つ1つの動作を確認しながら、慎重に、カメラ方フィルムをとり出した。

後日できた写真は、私の写真コレクションの自慢の数枚になった。霧の中でちょっと暗かったが、私たちが見たとおり、その分、鯨の迫力は増していた。ジャッキーやクルーなど、いろいろな人に焼き増しして配ったので、何人にあげたか覚えてないが、みんなに楽しんでもらった。


5月16日 13度。風10〜15MPH。割と暖かい。

乗客は多い。
ザトウクジラ20頭、ミンククジラ数頭。

今日は、あちこちにザトウクジラが見える。


   ザトウクジラ ブリーチング     ザトウクジラのブリーチングとホエールウォッチング船

   ザトウクジラ ブリーチング  ザトウクジラ ブリーチング  ザトウクジラ ブリーチング

初めはブリーチング、フリッパースラッピング、ダイブ、ブリーチングを繰り返すザトウクジラを見る。

次に、母子鯨がボイヤジャーのすぐそばに来る。
子鯨は、船に興味があるようだ。
どんな動物にも見られるが、子供特有の無意味な動き(子鯨にとっては何かを学習しているのだろうが)が多く、体全体で遊びを表現している。
こういうとき、母鯨はやはり母親らしく、ちょっと離れてやさしく子鯨を見守っている。

遠くでロブテーリングしている鯨もいる。

今日はいたるところに海草が浮かんでいて、1頭のザトウクジラがその中から頭を付きだして海草をのせてみたり、体をくねらせて巻き付けたり、尻尾ですくったりして遊んでいる。

海草で遊ぶザトウクジラの子供ロブテーリングしてみる

海草で遊ぶザトウクジラの子供背中に海草を乗せて泳ぐ

海草で遊ぶザトウクジラの子供胸びれで持ってみる

海草で遊ぶザトウクジラの子供頭だとどうかなー

海草で遊ぶザトウクジラの子供全身で喜びを表しているようだ

やはり、これは遊んでいるのだろう。目的のある行動には見えない。
どんな動物でも、子供はかわいく、こちらをほほえませてくれる。

帰りは、遠くでザトウクジラがロブテーリングを繰り返していた。

今日はスコポラミンを貼っていたおかげで、ほとんど酔わなかった。







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