タドサック / ニューイングランド 1 2 3 4 5 6 7 8 セミクジラ研究室 1 2 / リュベック 1 2 3 BBS / Blog / ホーム |
1992年5月19日 13度、快晴。風15〜20MPH。1 ほぼ満員。 行きはかなり揺れたが、スコポラミンのおかげで少し酔っただけですんだ。 今日からカメラをグレードアップ。400mmの望遠レンズ(長さが30cm程ある!)にした。 カメラは今まで通り、旦那からの借り物(といっても、私がほとんど使っているが)だが、このレンズは、鯨撮影用に旦那が買ってくれたものだ。 先日のこともあるから、実際に鯨に出会ってからあわてないように、昨日は、活発に走り回るうちの飼い猫で、素早く焦点を合わせる練習とレンズの交換の練習をした。 レンズが大きくなって重くなったので、シャッタースピードは一番速くして、ぶれないようにした。 フィルムはシャッタースピードが速くても良いようにASA400にした。 でも、実際にこの望遠レンズをつけたカメラを人前で取り出して撮影するのは、よっぽど写真を撮り慣れている人間に見えそうで、気後れがした。周りの人が、長いレンズを見て、「おっ」というような顔をしそうだ。 ザトウクジラ15頭、ミンククジラ1頭。 母子鯨がロッギング(睡眠)中だったが、突然、ロブテーリング数回とスパイホッピングする。 その後しばらく、他の鯨の居眠りを見る。 バブルネットフィーディングも数回見たが、これはちょっと遠く、近づくと止めてしまった。 母子鯨のロッギングは、かなり近かったので、カメラの画面から鯨があふれてしまった。 しかし、そのぶん、頭にあるストーブボルト(ザトウクジラ特有のあご前方にあるイボ。鯨捕りは、これが鯨の上あごと下あごをくっつけていると考え、「ボルト」と名付けたそうだ)まで撮れたと思う。 そいういうのもおもしろいかもしれないし、鯨のステーションでお客さんに説明するのには役立ちそうだ。 近すぎて訳が分からないロブテーリング 一応記念に・・ フィーディングも遠いとはいえ、望遠では、膨れた下あごや鯨の上を飛ぶ鳥たちまでよく見えた。 少なくとも4頭はいたようだ。 肉眼よりよく見えるのには感動だ。 口を閉じながら潮吹きする鯨 さすが望遠、エサで膨れた下あごまで見える |
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1992年5月23日 晴れ、5度。風5〜10MPHだがm海上は少し荒れている。 乗客多い。 ボランティアはロブと2人。 最近ボランティアになった学生の彼は、ボランティア講座を受けてないので、オンザジョブトレーニング(実地でトレーニング)を私が担当している。 彼は、飲み込みが早く、その上人が好きなので、1日目からステーションで働きだした。 今日はまだ数回目だが、分からないことがあるとこちらに聞きに来たりしながら、もうすっかり仕事に慣れている。 明るくて素直で、一緒に働く仲間としては最高だ。 ザトウクジラ15頭、ミンククジラ1頭。 今日は、旦那がビデオを借りて乗船。 リサの計らいで、2人で3階に上がってウォッチングさせてもらった。(あとでロブが探していたと聞いて悪かった!) ここは、ナチュラリストが解説に使う、スタッフオンリーの、360度、どの方向も見渡せるウォッチングには最高の場所だ。 |
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ブリーチング |
尻尾で海面を叩いてロブテーリング |
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クジラは、ブリーチングやロブテーリングによる音で、 他のクジラとコミュニケーションをとっているとも 考えられている。 |
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ブリーチングが終わると潜って再びブリーチング | ||
ザトウクジラ数頭があちこちで、ブリーチングやロブテーリングをしている。 やはり、うみがあれているからだろうか。 荒れた海の活動的なクジラは迫力があっていい。 |
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ブリーチ!! 畝のあるお腹を上にして海面に落ちる。 頭。左が口で右上に目、右下には畝が見える。 フリパースラッピング 向かって左が頭部で真ん中当たりに突き出ているのが目。白い胸びれを直角にあげて振り下ろす。 深く潜る時は尻尾をあげる。 ボイヤジャーの周りを観察するかのように、船の周りでは、1頭がずっとブリーチング、フリッパースラッピング、潜水を繰り返している。 船首のすぐわきでブリーチングし、その後、体をくねらせて横になりながらギョロッとした目でこちらをにらみ、お腹をこちらに向けて左舷から右舷へ泳いでいった時は、全員大喜びだった。 ウォッチングしている個人のヨットとボイヤジャーの間の、ヨットよりの方でも、そのクジラはブリーチングやフリッパースラッピングを繰り返していた。 ヨットはより水面に近いし、ザトウクジラのパフォーマンスも見上げる感じで、もっと迫力があったろう。 ヨットとクジラの大きさ比べ。 このクジラと反対側のボイヤジャーの脇では、別のクジラがロブテーリングを繰り返している。 ボイヤジャーを挟んではいるが、この2頭は何か連絡を取り合っていたのかも知れない。 この日はあちこちでブリーチングが見られた。 遠くでは、2頭が並んで、少しずれたタイミングで、ブリーチングやロブテーリングを繰り返している。 この2頭もきっと、何かお互いに意志を通じさせているのだろう。 船がステルワーゲン堆を離れる時も、クジラの活発な行動は続いていた。 今日は、ビデオと望遠の両方で撮った。 快晴で少し波があったが、クジラはとてもよかった。 きらきら光る海の上で水しぶきを上げたフィルム枠一杯に撮れたブリーチングの写真や、フリッパースラッピングで胸びれを直角にあげた横向きのクジラの頭部写真、ロブテーリングの写真など、この日は大収穫だった。 さすが望遠で、今までにない程大きな写真がきれいに撮れた。 お腹から落ちるプロブリーチ。普通は、体をひねって、背中から落ちる。 フリッパースラッピングの写真を見て考えた。 クジラの目の周りの部分が飛び出している。 クジラって出目なんだろうか? 荒れた海にもかかわらず、主人のビデオも、しっかりクジラの行動が撮れていた。 揺れる船の中でビデオの小さな画面を見続けるのは、かなりきつかったらしい。 私なら当然、酔っていただろう。 帰りにボイヤジャーのトップで主人と私、リサと私と撮ってもらったが、3人とも、ビデオ慣れしてない世代に育ったことが明白で、写真に写るときのようにじっとしているのには笑った。 |
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1992年5月26日 晴れ時々曇り。 風15MPH。 乗客50名。 会場はかなり揺れるが、私は大丈夫だった。 「友人が気分が悪いようだ」と言って、女性がステーションにやってきた。 私もその人も、船酔いだろうと考えていたので、「沢山着て寒くないようにして外のベンチに背をしっかり押しつけて座り、水平線を見るか、ベンチに寝そべるかさせていてください」とたのんで、後で塩付きクラッカーを持っていった。 その女性の友人は、かなり太った体に冷や汗をかいていて、見るからに気分が悪そうだった。 これで絶対船酔いが治ると言うものではないが、頭がふらふらしない、遠くの動かないもの(船や水平線)を見る、暖かくする、塩分をとる、は試してみる価値がある。 もっとも、船酔い中の多くの人は、もはや、クジラなんかどうでもいい、泳いででも帰りたい心境だろうが。 不思議なもので、この死ぬほどの思いも、陸に戻ると治ってしまう。人によっては、陸が見えてくるだけでも治る。 私の場合、ひどい時はアパートに戻ってもしばらくは気分が悪いときもあるが、一晩眠ると、またクジラを見に海に出られる日を待ちこがれている。 まったくクジラは私にとって、麻薬のような依存性があるようだ。 しばらくして、また先ほどの女性が私のところへ来た。 友達はいっこうに気分が良くならない、心臓がおかしい、ボストンへ帰りたいと話していると言ってきた。 やはり13度の外気では十分な上着もなく寒かったようで、客室のベンチに戻って横になっていた。 彼女は、太っている以上にヘビースモーカーだそうで、心臓がおかしくなりそうな条件は揃っている。 船酔い以上の病気のことでは、私にはお世話できないが、何にしてもかなり具合が悪そうなことは確かで、キャプテンに伝えた方がいいと思った。 2階の操舵室には、リサとキャプテンのケニーがいて、心臓が悪いのでボストンに戻りたいと言う女性がいると伝えた。 リサが客室に下りていって、女性を一目見て、「これは帰した方がいい」ことになった。 このとき、ボイヤジャーはもうはや、ボストンから1時間ほどのところに来ていた。 ちょうどステルワーゲン堆とボストンの中間地で、戻るにしてもまた1時間かかる。 そこで、アーリントンの港から沿岸警備隊にボイヤジャーを迎えに来てもらい、ボイヤジャーは沿岸警備隊の船に向かい、海上で落ち合うことになった。 それが一番近道だ。 もう病人がでていることは、多くの乗客の方には分かっていたが、状況を説明して、ボイヤジャーはステルワーゲン堆とは違う方向に進んでいる事を納得してもらった。 リサの指導で、客室の前半分を病人のために開けてもらい、病人の脈を計った。 しばらくして、沿岸警備隊の船と出会い、小型ボートで警備隊員がボイヤジャーに乗り込み、きびきびした態度で女性を診て担架に乗せ、連れて行った。 その間、デッキではジョンが慣れた手つきで乗客の交通整理をしていた。 彼が元警官でよかった。 女性を沿岸警備隊に引き渡すと、私たちは再びステルワーゲン堆を目指すことになった。 ザトウクジラ10頭、ミンククジラ1頭。 1頭のフレンドリーなザトウクジラがボイヤジャーに近づいてきて、頭を上げる。 ザトウクジラの頭部。 昔、クジラ捕りは、このストーブボルトで上あごと下あごがつながっていると考えていた。 更にもう一等が加わって、スパイホップした。 右舷にも、別の一頭が近づく。 3頭とも近いので、畝や頭のいぼいぼのストーブボルトなど全体がよく見える。 潜水は浅く、しっぽを思わせぶりに見せるが完全にはあげきらない。 船の周りでうろうろしているようだ。 船のいろいろなサイドにクジラが移動するので、3階のリサからは360度すべてが見渡せても、1階では彼女の「何時の方向(船では、12時を船首、6時を船尾として、時計を想像してクジラの位置を知らせる)にクジラ」の言葉に従って動いてすべてを見ることはできなかった。 フリッパースラッピングは見逃してしまった。 ミンククジラも10m先に見える。 ミンククジラの尖った背びれ 帰りに、スターン(船尾)でブリーチングを繰り返すクジラが見える。 ずっとブリーチングを繰り返していたので、乗客の1人と、カメラの望遠を使って見た。 帰りに、ジョンと2人でキャプテンに呼ばれて2階に上がった。 ケニーから病人を知らせてくれてありがとうと言われた。 普段、ボランティアは操舵室には行かないので、2人とも、何となく緊張し光栄に感じた。 やっぱりキャプテンって、責任があるだけ威厳があってかっこいい。 ジョンも素直に嬉しそうだった。 水族館に戻って、リサを捜してうろうろしていると、ブライアンのオフィスにいる彼女を見つけた。 「funeが助けたんだよ」とリサがブライアンに言った。 何度も言われると恥ずかしい。 でも、ボランティアで働いていること自体にたいしても、ここでは多くの人がその功績を認めてくれる。 認められると更にいろんな仕事をやらせてくれる。 そしてますます、仕事が楽しくなり、いとんな方面に手を出して、そこでいろんな人と知り合いになり、そこからまた、話が来る。 やる気さえあれば夢は実現できるという、「アメリカンドリーム」の一端を実感できる。 ボストンに来て、このような体験ができたのは幸せだ。 日本にいたころは自分は典型的な保守的日本人だと思っていたが、ここに来てからは、みんな同じに歩くよりも、それぞれの個性に合わせて歩くほうが性に合ってると感じるようになった。 多分、多くの日本人も、ほんとはそうなのに気づいてないだけで、やってみるのが恐くて自分を主張できないでいるだけだ。 私は偶然アメリカに来て、今の仕事を見つけた。それに対してなんら努力をしたわけでもない。 私が今、夢を実現できているのは、すべて幸運によるものだ。感謝! リサに、5月23日に望遠でとったクジラの写真を見せた。 できあがったブリーチングするザトウクジラの写真を見た時、我ながら初めてにしては上出来だと思った。 写真の真ん中に、少なくともL版サイズのスナップ写真の大きさでは、ピンぼけもしていない、ブリーチングする鯨が枠一杯の大きさで写っている。 リサはもともと水族館にはカメラマンとして雇われたそうだが、彼女も気に入ってくれて、「この写真とこの写真、ちょうだい」と言われて、もちろんあげた。 今日撮った写真には、フレンドリーなザトウクジラのスパイホッピングがあったが、400mmの望遠では、船のすぐ脇の鯨は近すぎて、頭の一部が撮れているだけだった。 それにちょっとピンぼけでもある。 でも、ザトウクジラのストーブボルトの毛穴までみえていて嬉しい。 が、私がこの鯨だったら、「こんなところまで撮らないでよ」と文句をつけそうだが。 1992年5月30日 18度、晴れ、。風邪10〜15MPHだがかなり揺れる。 乗客多い。 気温や風速はいtも、天気予報のものだが、実際の海上では、大抵、それより寒く、風は強い。 例えば、真夏で地上では日射病になりそうなくらいの暑さのとき以外は、ウォッチングではジャンパーはかかせない。 今日くらいの温度なら、海上は間違いなく寒いので、スキーパンツをはく。 着替えるのが面倒なので、水族館に向かうボストンの町中もこの格好で歩くから、ありったけのものを着ている浮浪者のように見られているかもしれない。 地上の気温のつもりで乗船してきたお客さんは、ウォッチングの後半には大抵寒くなって、客室に閉じこもって温かい飲み物などを飲んで過ごすが、ステルワーゲン堆に着いたはじめの頃は、まだ鯨から遠いことが多く、むしろ後半の方が面白いことが多いので、これではもったいない。 私は、船酔いしていない時は、大抵最初から最後まで、ナチュラリストの声に従って、船のサイドからサイドに移動して、十分鯨を楽しんでいる。 「こんなのはいているんだもんのね」と、いかにも「自分だけずるい」と言いたげな感じで、帰り際に私のスキーパンツを指す乗客のかたもいる。 ウォッチングには常に着るものは余分に持っていった方がいい。 温かくさえしていれば、船酔いのときでさえ、甲板に出てじっと水平線を眺めていられる。 しかし、今日のボランティアのエリーは、なんといつも、レオタード姿だ。 ボランティア規則には、一応、その場にあった服装をするようにかかれているが、この抽象的な規定がこの場合どう当てはまるのか分からない。 初めて彼女を見た時、クルーもボランティアも度肝を抜かれた事は確かだ。 年齢はおそらく50代、寒くないのかしらん? もう一人の新しいボランティアは、レイチェルと言う名の若い女性だ。 普通、中途採用のボランティアガイドの場合、オンザジョブトレーニング(=現地で訓練)になるので、初日は先輩ボランティアの仕事を見学し、2日目から少しずつ働き始める。 ロブのように初日から働き始める人もいてそれぞれだが、2日目の今日、この2人は、あまり熱心ではない。 ステーションにも来ないで、ぶらぶらしている。 シーズンはじめのトレーニングコースも受けてないから、あまり自分の知識に自信がないことも考えられるし、分からないこともない。 ウォッチングただ乗りの目的で乗船するボランティアもいると、話に聞いている。 リサも何となくそれに気づいていて、笑顔で働くように促そうとする。 私もリサに同感だが、まあまあと言う感じで、今日のところは2人をかばっておいた。 午前中のウォッチングでは、来る鯨来る鯨ブリーチングしたらしい。 2頭同時のブリーチングもあったそうだ。 午後は、ザトウクジラ7〜10頭、ミンク鯨2頭。 1頭は船のすぐ近くに来た。 船首近くで一度ブリーチング。 他の3頭も、2〜3回ずつブリーチングする。 お腹をしたにして落ちるプロブリーチ(普通は海上で体をくるっとひる返して背中を下にして落ちる)があった。 フリッパースラッピングや、大口は見えないがバブルネットフィーディングもあった。 お腹を下にして落ちるプロブリーチ フリッパースラッピング中の胸びれ。海面にはお腹を上にしたクジラの体がある気配。 船酔い無し。 1992年6月2日 18度、晴れ。 風15MPH。海上かなり揺れる。 学校の団体有り。 ザトウクジラ7頭、ミンククジラ1頭。 今日は久しぶりにブリーチングもフリッパースラッピングもない日だった。 母子鯨のうち、子鯨がボイヤジャーに近寄ってきて、一度スパイホッピングした。 潜水もすべてカジュアルダイブ(浅い潜水)で、しっぽは持ち上げない。 ミンククジラが珍しくかなり近くによってきた。 ミンクにしてはかなり大型だった。 ミンククジラ 今日も船酔い無し。 1992年6月9日 26度、晴れ。風10MPH。 3つくらい学校の団体が入り、それで満員・売り切れになる。 ボランティアは、ジャッキーと二人。 ザトウクジラ5頭、ミンククジラ3頭。 今日は海が久しぶりに穏やかだった分、クジラもおとなしかった。 フリッパースラッピングしたクジラは、1回きりでやめてしまったので、多くの人が見ていない。 私も、クジラが飛び込んだ後の水しぶきだけ見た。 ザトウクジラのエイぺックとその子供がロッギング中。 リサによると、エイペックは、7歳の時からいつも健康優良児の子どもを生んで育ててきた。 子どもたちで満員なので、あまり身動きが取れず、写真はあまり撮っていない。 クジラのステーションには、北大西洋で見られるクジラを描いたポスターがあるが、それを見ながら、男の子が一人、熱心にクジラの絵を描いている。 ザトウクジラなら長い胸びれやずんぐりした体つき、シロナガスクジラならスリムは長い体つきと、特徴をよく捉えている。 「すごく上手ね、この絵大好き」と言って、彼の描いたザトウクジラを使ってザトウクジラの特徴を説明して、絵がいかによく描けているか話した。 彼は嬉しそうに、そのうちの1枚を私にくれた。 男の子のくれた絵 その善意に何かお返しをしたいと思い、売店に行ってクジラのステッカーを買おうとしたら、クルーのクリストファーが「それならあげるよ」と言って、ステッカーをただでくれた。 男の子は、ステッカーをとても喜んでくれて、それからも時々ステーションに遊びに来た。 下船のときも、わざわざ私のところに来て、「ステッカーありがとう」と言って下りていった。 それを見ていたジャッキーが、「彼はあなたのこと好きなのよ」と言った。 私もあの年頃の感受性豊かで素直な男の子が好きだ。 この絵は、記念にクジラのアルバムに貼った。 これは、給料をもらわないボランティアの報酬なのだ。 ボランティアはただ働きとは違って、いろんなものをもらう。笑顔、「ありがとう」、信頼関係、評価・・。 両方の尾羽の付け根に傷がみえるクジラ この日撮った数枚の写真の中に、傷ついた尻尾の写真が見つかった。 このクジラは、こちらに向かって泳ぎ、尻尾をあげて潜水しようとしている。 撮った時は全く気づかなかったが、付け根に近い尾羽のところに、左右対称に何かが深く食い込んだようだな傷がある。 傷の具合からおそらくは、漁網が引っかかり、逃れようとしてもがいているうちに傷ついたのだろう。 そんなに新しい傷ではなく、もう傷の周りが盛り上がってきて傷口をふさごうとしている。 しかし、尻尾に近い背中部分には背骨がゴツゴツ見えていて、長い間、漁網がかかってエサが捕れなかったか、体力を消耗したかの理由でやせているのも分かった。 ステルワーゲン堆は、有名な漁場でもある ただ、このクジラは、まだ運がよかったのだ。 傷を負って十分に動けないときにシャチやサメに襲われることもなく、時間はかかったかも知れないが漁網もとれている。 これから秋まで採餌の機会はたっぷりあるから回復のチャンスはある。 シーズンはじめの頃に見かけた背中に傷のあるクジラ(あれ以来、このクジラは見かけていない)や今日のこのクジラは、人間活動の犠牲になっているクジラのうちのほんの一握りだ。 本当に深刻な被害を受けたクジラたちは、私たちの目に触れることなく、海の塵と化していく。 1992年6月13日 30度、晴れ。風20MPH 公表された風速は、かなりの風を示していたが、今日は、20MPHとは思えないほど海上は穏やか。 ジャンパーでは暑く、かといってTシャツ1枚では寒い。 今日は、トラスティーのメンバーのみ(50人)の貸し切りで、館長のジョン・プレスコット氏も乗っていた。 水族館のメンバーでももっとも一般的で大きな割合を占めるのは、たびたび水族館を訪れる人(家族)や水族館の特別行事に関心のある人(家族)が1年間メンバーになる、おとくなメンバーシップだ。 確か、3回ほど水族館に行くと元が取れるはずだ。 私も、ボランティアになるまでの数週間、メンバーになってせっせと水族館に通い、元を取った。 でも、トラスティーは、ちょっとやそっと(おそらく毎日でも)水族館に通ったって元は取れない。 割りよく水族館に通うためのものというより、むしろ、水族館活動を支持する何千ドルの大口の寄付者と考えた方が適切だ。 従って、乗客はお金持ちの人ばかりらしく、上品だ。 いつもと違い、クジラが出てきた船のサイドにワアーッと人が押し寄せる事もない。 ゆっくりと線状のパーティーを楽しんでいるようだ。 一人の老婦人に、私がかなり若く、一人で外国に来て働いていると思われ、同情を込めてやさしく話しかけてきてくれた。 いえいえ、私は34歳で、主人もおりますというと、びっくりしておられた。 ザトウクジラ10頭、ミンククジラ3頭。 昨日はゴンドウクジラが見えたそうだ。 3頭一緒に行動しているザトウクジラがいた。 尻尾がきれいに上がる。 ロブテーリングは、2頭が1〜2回。 遠くでずっとフリッパースラッピングを続けているクジラもいた。 今日のナチュラリストはクルーとして今まで働いていたジェーン。 ちょっとハスキーな声の、ポニーテールの若い女性だ。 下船時の掃除のときも、ゴミがほとんどなかった。 今日一緒に働いていたロブが、「今日のお客さん大好きだ」と言った。 帰りの掃除は、ボランティアは必ずしもしなくていいのだが、私が「しなくてもいいけどね、はいこれ」と、ボランティア初日のロブに台ふきを渡して以来、彼は、いつも掃除をして帰る。(もちろん私もやる。私の場合は、船酔いで働けない時の貯金として) 私がちょっと他の人と話し込んで下船が遅くなっても、何か面白いことがあるのかなと言う感じで、ロブもやってきて一緒に仲間に入る。 楽しくて控えめな人だ。 1992年6月16日 22度、晴れ。 ホエールウォッチング船とザトウクジラ 今日はチケット売り切れで満員。 ザトウクジラ8頭、ミンククジラ3〜5頭。 はじめはロッギング中の海面でじっとしているクジラばかりだったが、やがて遠くで、2頭同時にブリーチングするザトウクジラを見つける。 その2頭は、次に、フリッパースラッピングを始めた。 他のウォッチング船が数隻いたため、近寄ることはできなかった。 ホエールウォッチングのルールで、1度に同じクジラに集まる船の数が決まっているからだ。 ボイヤジャーからもこんな風にクジラを見ている。 別の1頭は、5〜6人乗りの小さなボートの船尾のすぐ脇で、フリッパースラッピングとブリーチングをした。 クジラの大きさを見るのにちょうどいいと思って、フリッパースラッピングで空中にあげた胸びれとボートの人間が並んだ写真を撮った。 この大きさ!! 右の白いのは左胸びれで、その左横は左の尾羽。 クジラだけだったり、大型船とクジラの場合には感じにくいクジラの大きさが、よく分かる。 言うまでもなく、胸びれのほうがm立ち上がってクジラを見ている人より2倍ほど高く、横幅も胸びれに人間が完全に隠れる事ができる。 もしこのクジラが敵意を持ってこのボートを胸びれで叩いたら、ボートは転覆し、乗っている人は投げ出されるだろう。 フリッパースラッピングするクジラを横目にボストンに帰った。 今日は、日本からのお客さんが3人いた。 マイアミ水族館の人が2人乗船していて、マナティー(ジュゴンと同類)の写真をみせてもらった。 少し揺れたが目が回った程度で大丈夫だった。 潜るクジラとこれから潜るクジラ 1992年6月20日 22度、曇り時々晴れ。 今日もチケット売り切れ。 いつもはステルワーゲン堆に着く頃には、すでに1頭目のクジラを目指しているのだが、今日は、デッキに出てクジラ探しで始まった。 15分ほどしてやっと、親子の2頭連れが見えた。 1頭がロブテーリングのあと、フリッパースラッピング、ブリーチングをしたが、いずれも1回ずつですべて見逃してしまった。 ステーションは子どもたちでにぎわう。 今日は、去年も日本からボストンを訪問されて水族館やホエールウォッチングのに来ていただいたSさんが、マサチューセッツ総合病院で働く息子さんと一緒に乗船している。 去年は、息子さんは仕事で忙しかったので、コリーンの紹介で私が1日お供したのだが、今年は親子水入らずだ。 クルーの計らいで、無料でのせてもらった。 今日はかなり揺れて、スコポラミンが効かずに困った。 Sさんは、扁桃腺を切ってから乗り物酔いはしなくなったと言われていたが、もしかしたら、関係あるのかもしれない。 私が酔い始める頃も、のどが締め付けられるように感じる。 私も小さい頃は扁桃腺ばかり腫らせていた。 アレルギーという病気だって、原因が分からず、ちょっと前までは、怠け者の言い訳みたいに言われてきたのだから、船酔いだって、もう少し、研究が進んで仕組みが解明されれば(誰か研究してるのかな?)、何か原因が見つかるかも知れない、と期待している。 Sさんは、相変わらず明るく元気で、あちこちに移動して楽しんでおられたが、息子さんの方は、ちょっと気分が悪そうだった。 今日は、Sさんと息子さんの写真を撮った。 1992年6月23日 21度、晴れ。風10〜20MPHだが、海上穏やか。 乗客少なく、40名くらい。 ザトウクジラ12頭。 移動中の足早に泳ぐクジラばかりだった、。 潜水すると、次に現れるのはかなり離れたところだ。 最後に姿を現したのは、好奇心のあるクジラで、船のエンジン音に惹かれているらしく、2〜3度近寄って船尾辺りをうろうろしてスパイホッピングする。 あわてて焦点を合わせて撮ったが、多分、ピンぼけだろう。(ピンぼけだった) スコットがアラスカから鯨肉を取り寄せる日本人と知りあって、今度鯨肉が手には入ったら電話をもらう事にしたそうだ。 スコットはその鯨肉をどうするつもりだろうか。 もっと気になるのは、その日本人って何者だろう。 何のためにアメリカでは輸出入の禁止されている鯨肉を買うのだろう。 スコットはまた、アラスカで鯨肉を売ることができるのは、(商業捕鯨が禁止されているのに対して)不公平だと思う、とも話していた。 確かにどこからどこまでが原住民捕鯨か、商業捕鯨なのか区別するのは難しいものがある。 スコットは、ナチュラリストとして、日本がまだ調査捕鯨を行いミンククジラを捕っていることをボイヤジャーのお客さんに話しているが、それを日本人の私が居心地悪く感じているのではないかと、気遣ってくれる。 私は、「真実を喋る限り、話すべきだし、私は全然構わない」と言った。 事実は伝えられなければならない。 捕鯨の話の場合は、それに、捕鯨賛成、反対の尾ひれまで付いてくることが多いが、それを決めるのは個々人。情報提供者はあくまで事実だけを伝えればよいのだ。 逆に、事実にまでおおいをかぶせてしまうのは正しい判断を狂わせる。 言うまでもなく、真実を伝えないか、真実ではあるが自分の都合のよい部分だけ伝えたり、真実を曲げて伝えて民意を惑わすのは論外のことだ。 それが、捕鯨派の意見であれ、反捕鯨派の意見であれ、自分たちの利害のために真実を隠すのは、罪だ。 一般の、あまり捕鯨について詳しくない人にとっては、多くの場合、それが唯一の情報源であることに責任を感じ、情報提供者が良心を持たねばならない。 残念ながら、捕鯨に関しては、そのような情報が多い。 1992年6月27日 23度、曇りのち小雨。風10〜20MPHだが、海上穏やか。 乗客250名。 ザトウクジラ10頭、ミンククジラ2〜3頭。 まずミンクが現れた。 ミンククジラはいつも、尻尾を見せずに潜り10秒から数分経って、ずっと先に現れ、予想が付きにくくてウォッチャー泣かせなのだが、今日の1頭は、潜ったあとすぐにもう一度出てきたので、写真が撮れた。 2〜3頭のザトウクジラの群れが、ボイヤジャーに10mくらいまで近づいてきた。 うち1頭が、船の脇5mくらいまで来たが、そこできれいに尾をあげて潜水し、再び現れることはなかった。 ウォッチング途中から雨が降り出し、気温も下がってきて、ステルワーゲン堆について1時間たたない頃には、殆どの人が船室に戻ってしまった。 私はスキーパンツとジャンパーのお陰で、最後まで残ることができた。 (おまけに人が少なくなって動きも良くとれるようになった。) たいていの人は、海での寒さを甘く見積もっている。 高いお金(23ドル)を出して来るのだから、荷物になっても、少し余分の洋服を持ってきて、最後までウォッチングを楽しまないともったいない。 雨が降っていたのは沖の海上だけだったのか、ボストンに戻ってくると陸上は濡れていないし晴れていた。 今日の写真はピンぼけのこちらに向かってくるクジラ、枠からはみ出した尻尾の写真だった。 いずれも距離が近かったので、大きく撮れていることは撮れているが・・。 ”It's comming!"実際にこういう場面に出くわすとわくわくする。 浅く潜る時は、尻尾の角度があまりないので、こんな風に海面に落ちる時がある。 |
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