タドサック / ニューイングランド1      7 8

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タドサック 丘から見下ろした町並み
タドサックの中心。
真ん中に見える赤と白の建物は映画「ホテル・ニューハンプシャー」が撮影されたホテル。
その意味では「ホテル・タドサック」が正しいかも?
右手は、セントローレンス川で、ここからホエールウォッチングの船が出る。

タドサック


カナダ東部のケベック州・モントリオールに住んでいたころ、普段、仕事中毒の旦那が、珍しく休暇を取った。

さて、どこへ行こうか?
とりあえず行ったモントリオールの観光センターで、目に飛び込んだのが、今まさに潜ろうとする、水を滴らせた大きなクジラの尻尾のポスターだった。

「ここっ!」
そこは、セントローレンス川沿岸にある、ケベック州北部のタドサックと言う町。


クジラとの出会いは、こんな偶然から始まった。




「もしかして、客寄せのためのポスターかも?」という疑いもあったが、思い立ったが吉日!
10日間・9..9(カナダ)ドルで乗り放題のバスのキップを片手に、セントローレンス川北上を開始した。(地図)

北上するにつれ、英語を話す人がいなくなり、ケベックはフランス人が最初に上陸した土地だと言うことを、あらためて思い知る。
が、田舎の人情は、都会のそれとはかけ離れて厚く、私の拙いフランス語を一生懸命聞いてくれる。
バスの運ちゃんは、最後の乗客となった私たちを、バスに乗せたまま宿捜ししてくれるし、町の人は皆笑顔で親切。
おまけに、空気は澄み切って、景色が、雲が、空がきれい!




マルベー(カナダ東部)の夜
バスの乗り継ぎ地点、マルベーの夜景。
あんまりきれいで、予定を伸ばして、二泊した。




ケベック、マルベー(二泊)とバスを乗り継ぎ、フェリーに乗り、タドサックには、3日目についた。

到着翌日、いよいよホエールウォッチング、きれいに晴れたホエールウォッチング日和だ。

そのころ、少なくとも私たちが日本にいたころはまだ、日本では”ホエールウォッチング”なんて言葉もなかったし
”もし見えたら、捕鯨に関わる以外の日本人では初めてかも”とか、今では考えられないようなことを想像していた。

海のように広いセントローレンス河岸から、自然解説センター(Centre d'interpretation de la nature)が出す船に乗った。
300人乗り2階建てのフェリーのようながっちりしたボートだ。




タドサックのホエールウォッチング船     タドサックのホエールウォッチング船(ゾディアック)
タドサックから出ているホエールウォッチングいろいろな船。左は帆船、右はゾディアックというゴムボート。

以前カヌーに乗って船酔いし、死ぬかと思うほど苦しい思いをしたので、今回は一番大きな船に乗ることにした。
タドサックには、世界最大の動物・シロナガスクジラも居るが、”シロナガスを見るまで帰らないツアー”というのもある。




出航して間もなく、「ベルーガが居ます」というアナウンスが聞こえてきた。
船に乗っている全員が、一度に同じサイドに移動する。

波と似て見つけにくいが、目が慣れると、100mほど先に波と違う動きをするものが見つかった。
ベルーガは複数で、波間を素早く泳いでいる。
白いとは聞いていたが、野生のベルーガもこんなにきれいとは思わなかった。
空とセントローレンス河の水の青に、真っ白のベルーガが映えている。

さらに、ベルーガの泳いでいる波間には、アザラシも見えた。
アザラシというと、芋虫のように体をくねらせてよちよち歩く、陸上での姿は知っていたが、
水の上では、とてつもなく速い!「水を得た魚」の表現がぴったり。
泳ぐと言うより、水面すれすれを飛んでいるといった方がいいかも知れない。




ベルーガ 点!
この時はまだ、望遠レンズを持ってなかったため、ベルーガはこんな白い点になってしまった!
ほんとは、もっとよく見えた。
ナガスクジラ タドサック



その後、1時間ほど沖へ出る。今度はナガスクジラが現れた。


黒い背中に後ろ向きにとがった背びれが見える。今度はベルーガと違い、大きい!
水面に現れる動作がゆっくりしている。

頭が出て尾が隠れるまで数秒かかり、あっという間に波に紛れるベルーガやアザラシとはまったく違う。
しかし、泳ぐスピードそのものは素早い。

船から身を乗り出したり、人波から頭を突き出しながら、クジラが潮を吹いて姿を現すと、「わぁ」とか「おー」と皆が感激の対面をしている。

クジラの方は愛想もなく、「プシューッ」という印象的な潮吹きの音を出し、堂々としかも足早に泳いで私たちの船の向こうへと通過していった。
通り過ぎる姿も雄大だ。
ナガスクジラ



次のナガスクジラは、もっと近くに現れた。

船のすぐ横の潮吹きに一斉に歓声が上がり、大きな背中が見えた。
背中だけであれだけの面積がある生き物なんて凄い!

あの上に、人が何人乗れるんだろう、全体が見えたらどんなに大きいのだろう。

背びれがこちらから反対側へゆっくり移動していくと、最後に背中がクイと曲がり尻尾は見せずに潜っていった。

昨日自然解説センターのビデオで見た、世界最大と言われるシロナガスクジラもそうだったが、潮吹きしてから潜るまでの一連の行動に時間がかかるのがすごい。
ナガスクジラ
ナガスクジラは、でかい!
頭の辺りがちょっと白く見える。



それからもガイドの声にしたがって、船のサイドからサイドへ忙しく移動を繰り返し、そのたびに歓声を上げて、このとびきり大きな動物を堪能した。

もう寒さも船酔いの心配も忘れていた。



やがて、これまでの天気がウソのように、雲が出て空模様がおかしくなった。

雨こそ降らないが、空気も急に冷えてきた。
乗客の中には、もうクジラもだいぶ見たから、暖をとるために船室に留まる人も出てきた。

私は、寒くて少し気分が悪くなりかけていたが、まだ船室には入りたくなかったので、旦那が買ってきてくれたホットチョコレートで暖まりながらクジラを見た。

クジラは近くで、頻繁に見えるようになった。
明るい空の下のベルーガはもよかったが、暗い空を背景に、波だった灰色の河を素早く泳ぐ大きな黒い背中は、迫力があり、クジラの潮吹きも荒々しく聞こえた。




タドサック(カナダ東部)の夕景
タドサックの夕景。
サグネー川が、手前のセントローレンス川
に交わっている。




初めてのホエールウォッチングは、たくさんのクジラやアザラシが見えて、とても満足して船を下りた。
ホテルに戻って冷え切った体に熱いシャワーを浴びた後、再びセントローレンス川のほとりに出た。

心地よい疲れで岸辺を散歩するころは、セントローレンス河の夕景は、再び晴れて穏やかに輝いていた。
辺りには車の音も人の声も聞こえない。波が静かに寄せては帰っていた。

静寂の中で「プハッ」と音がした。

小さなクジラかアザラシかが海面で息をしている音だ。
昼間に見たナガスクジラとは違い、潮吹きの音が軽い。
遠いし、逆光なので、はっきりと姿は見えないが、確かにほんのときたま、小さな潮吹きの音がする。

急にこの岸が、今日クジラを見に行った水面に続いていることが思い起こされた。

夕焼けはますます赤紫に空を染め、私たちは岸に座り、暗くなるまで彼らの音を聞いていた。



グランベルジェロンヌ(カナダ東部)の夕景
ボンデジール岬への起点として滞在した
グラン・ベルジェロンヌの夕景。
タドサックは、クジラ観光で栄えているが、
ここはホテル以外、何もない。
が、夕陽は燃えるようにきれい!




翌日はもう少し北上して、岸からクジラが見えるという、ボンデジール岬へ行くことにする。
この辺は車社会らしく、”徒歩何分”という感覚があまり無いらしい。
「歩いて?さあ、15分くらいかな」というホテルの人の言葉を信じ出発するが、行けども行けども、目的地はない。
何もないので、目的地に近づいているのかも分からない。
山道を、時折猛スピードで走ってくる車を脇でかわしながら、結局2時間かかって、かなり苦労してたどり着いた。

小さな灯台のある赤い屋根の案内センターで、双眼鏡を借り、早速、林の中をくぐって、波の荒い岩場へと下りていく。
ここは水深がいきなり深いので、10m暗いのミンククジラから、30mにも成長するシロナガスクジラだって見えることがあるそうだ。




ボンデジール岬の灯台
ボンデジール岬センター
ボンデジール岬 アザラシ 点!
私たちにびっくりして泳いでいったアザラシ、例によって”点”


自分の出す声さえびっくりするほどの反響する静寂の中で、突然「シューッ」と音がする。クジラだ!
すぐに音の方向へ双眼鏡を向けたが、もうクジラはいなかった。

だんだん目と耳が慣れてくると、割と頻繁にクジラが塩を吹いては水面下へ消えていくのが分かってきた。

タドサックで見たナガスクジラより小さく、黒っぽい背中が見えてすぐ消えてしまうので、おそらくミンククジラだろう。
それでも7〜8mはありそうだ。双眼鏡でもよく見える距離だ。
潮を吹く音以外は辺りに音のするものは何もなく、世界にクジラと私たちしかいないみたいな、独特の平穏な空気だ。

1時間ほどクジラを追いかけていると、徐々に霧がでてきて、海面を覆い始め、やがてすぐ手前の水面さえ見えなくなった。
灯台からは、航行中の船に向かって霧笛がなり始めた。
しばらく、霧が晴れるのを待っていたが、一向に晴れる気配はない。

とりあえず、センターに戻ろうと、あきらめて仕度を始めたとき、ほんのわずかに霧が晴れ、現れた岸部の水面から、
黒くてつるつるの禿頭の後頭部が出ているのを見つけた。
「何だろう?」と目を凝らしていると、やがてその頭はゆっくり方向を変え、こちらを向いた。

アザラシだった。こんな間近でアザラシが見えるなんて、びっくりした。
でも、私たちより驚いたのは、アザラシの方で、こんな近くに人間がいるとは思ってなかったらしい。
思わずノラネコにでも挨拶するように、「ハイ」といったら、〜絶対すべきでなかった!!〜 あわてて泳いでいってしまった。



もう霧は晴れそうになかった。
帰りは、センターで一人で働いていた女性の好意で、ホテルまで送ってもらった。


帰り道は、その女性とクジラのお話で持ちきりだった。

今は法律で禁止されているが、この辺りでは昔は、ベルーガ捕鯨をやって油や食料にしていたとのこと。
石油の普及によって絶滅の危機を逃れた今、再びベルーガたちを襲っているのは、化学物質だ。
タドサックの自然解説センターにもあったが、五大湖の工業地帯から流れてくるセントローレンス河を住処とするベルーガは
癌に苦しんで、その生存が危うくなっている。

シロナガスクジラの潮を吹く音は、霧がでるとよく聞こえるとも教えてくれた。
(私たちは、もしかしたら聞き逃したのかも知れない!)
とはいえ、棲息数が少ないため、毎日灯台に通う彼女でさえ、今年はまだ見てないそうだ。



その日の午後、私たちは今回の旅の大きな目的である、初のホエールウォッチングを大満足のうちに終え、
フェリーで次の目的地、セントローレンス河対岸のガスぺ半島に向かった。

河は一面に霧が立ち、霧の向こうから夕日が差して、幻想的な風景を醸し出していた。
夕焼けの中でもう一度、ベルーガがいないかなと思って目を凝らしていたが、
残念ながら見つけられなかった。



セントローレンス河 セントローレンス河
セントローレンス河対岸のガスぺ半島・リビエル・デュ・ルーにわたるフェリーからみた、霧の夕景。


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